ヒートショックという言葉は聞いたことがあっても、他人事に感じている人は多いと思います。数字を見ると、そうでもありません。
消費者庁がまとめた統計では、65歳以上の高齢者の入浴中の溺水による死亡は年間およそ5,800人(自宅や施設の浴槽内)。これは交通事故で亡くなる高齢者の2倍以上です。
そして、1月をピークに、11月から4月に集中しています。つまり冬の家庭内で起きている事故です。
怖い話をしたいわけではありません。やることが少なく、しかも今日からできるので、そこをまとめます。
何が起きているのか

仕組みは単純です。急な温度差で、血圧が大きく上下します。冬の入浴では、こういう移動をしています。
- 暖かい居間(20℃前後)
- 寒い脱衣所・浴室(10℃以下のことも)
- 熱い湯船(40℃前後)
- また寒い脱衣所へ
この行き来のたびに、血圧が乱高下します。特に、寒い場所で上がった血圧が、湯船で一気に下がるところが危ないとされています。
つまり、問題は「風呂」ではなく「温度差」です。だから対策も、温度差を小さくすることに集中すればいい。
対策1:脱衣所と浴室を暖める

これがいちばん効きます。温度差そのものをなくす方法だからです。
脱衣所
小さな暖房器具を1つ置くだけで変わります。入浴の10分ほど前につけておくと、服を脱ぐときに寒くありません。
浴室
暖房乾燥機があれば、それを使うのがいちばんです。ない場合でも、道具なしでできる方法があります。
- シャワーを高い位置から出して、浴槽にお湯を張る … 湯気で浴室全体が暖まります
- お湯を張った浴槽のフタを開けておく … 入る前に開けておくと、湯気が広がります
- 入る前に、壁や床に熱いシャワーをかける
お湯を溜める方法を変えるだけなので、追加の費用がかかりません。ここを知らない人が多いところです。
対策2:湯温は41℃以下、10分以内
熱い湯に長く浸かるほど、体への負担は大きくなります。
- 湯温は41℃以下(42℃以上は避ける)
- 浸かる時間は10分以内
「ぬるいと温まらない」と感じるかもしれませんが、41℃で10分浸かれば体は十分温まります。むしろ長風呂は、のぼせや脱水につながります。
対策3:かけ湯をしてから入る
いきなり湯船に入らないでください。手足の先から順にかけ湯をして、体を湯温に慣らします。心臓から遠いところからが基本です。
これだけで、血圧の急な変化を抑えられるとされています。手間は数十秒です。
対策4:飲酒後と食後すぐは避ける
見落とされがちですが、重要です。
- 飲酒後 … 血管が広がって血圧が下がっているうえ、判断力も落ちます
- 食後すぐ … 消化のために血液が胃腸に集まり、血圧がやや下がっています
どちらも、そこに入浴が重なると変動が大きくなります。晩酌をしてから風呂に入る習慣がある人は、順番を逆にするだけで違います。風呂に入ってから飲む。それだけです。
対策5:一番風呂を避ける
2番目以降に入ると、浴室が既に暖まっています。家族がいるなら、高齢の家族や血圧が気になる人が最初に入らないようにするだけで、リスクを下げられます。
1人暮らしで一番風呂しかない場合は、前述の「シャワーでお湯を張る」方法で浴室を暖めてください。
対策6:家族に声をかけてから入る
同居している人がいるなら、入浴前に一声かける習慣をつけてください。万一のときに、気づくまでの時間が短いかどうかが結果を分けます。
- 入る前に「お風呂入るね」と言う
- 長く出てこないときは様子を見に行く
- 高齢の家族なら、脱衣所のドアを施錠しないよう頼んでおく
これは費用も手間もかかりません。いちばん見落とされている対策だと思います。
対策7:夜遅い時間を避ける
深夜は気温がいちばん下がる時間帯です。脱衣所と浴室も冷え切っています。可能なら、日が落ちきる前か、家が暖まっている時間帯に入るほうが安全です。
リスクが高いのはこんな人
以下に当てはまる場合は、上の対策をより丁寧にしてください。
- 高齢である
- 高血圧、糖尿病、心臓や血管の持病がある
- 肥満気味である
- 熱い風呂が好き、長風呂が習慣
- 飲酒後に入浴する習慣がある
- 家が古く、脱衣所や浴室が寒い
持病がある場合は、入浴のしかたについて医師に相談してください。服用している薬によって、注意すべき点が変わることがあります。
若い人も無関係ではない
「高齢者の問題」と思われがちですが、温度差で血圧が変動するのは年齢に関係ありません。
統計上の死亡者に高齢者が多いのは事実ですが、めまいや立ちくらみは若い人にも起きます。浴室で転倒すれば、それ自体が事故になります。飲酒後の入浴や、熱い湯での長風呂は、年齢を問わず避けたほうがいいです。
まとめると、やることは3つ
細かく挙げましたが、優先順位をつけるとこうなります。
- 脱衣所と浴室を暖める(温度差をなくす)
- 41℃以下で10分以内(体への負担を減らす)
- 飲酒後に入らない(血圧が下がっているときに重ねない)
これだけでも、状況はかなり変わります。
冬の事故を防ぐという意味では、冬のドライブ前に確認したいこと も同じ時期の話です。部屋の温度と湿度を整えることは 部屋の乾燥対策 にまとめました。湿度が高いと体感温度が上がるので、脱衣所の寒さ対策にもつながります。
まとめ
- 65歳以上の入浴中の溺水死は年間およそ5,800人。交通事故の2倍以上
- 1月がピークで、11月から4月に集中する
- 問題は風呂ではなく温度差。血圧が乱高下することが危ないとされる
- いちばん効くのは脱衣所と浴室を暖めること
- 暖房器具がなくても、シャワーを高い位置から出してお湯を張ると浴室が暖まる
- 浴槽のフタを開けておくのも有効。費用はかからない
- 湯温41℃以下、10分以内。42℃以上と長風呂は避ける
- かけ湯は手足の先から。心臓から遠いところから慣らす
- 飲酒後と食後すぐは避ける。風呂に入ってから飲むほうが安全
- 一番風呂を避ける。2番目以降なら浴室が暖まっている
- 入浴前に家族へ一声かける。気づくまでの時間が結果を分ける
- 深夜は避ける。気温がいちばん下がる時間帯
- 持病がある人は、入浴のしかたを医師に相談する
- 若い人も無関係ではない。飲酒後の入浴と長風呂は年齢を問わず避ける

