災害が起きたとき、ペットをどうするか。置いて逃げるという選択肢が頭をよぎるかもしれませんが、環境省はペットと一緒に避難する「同行避難」を推奨しています。
理由はペットのためだけではありません。「ペットが心配で家に戻る」「ペットがいるから避難をためらう」という行動が、飼い主自身の命を危険にさらすからです。実際、過去の災害でそうした事例が繰り返されてきました。
一緒に逃げることは、ペットを守ると同時に、自分を守ることでもあります。ただし、ここで知っておかなければならない重要な区別があります。
「同行避難」と「同伴避難」は違う

この2つはよく混同されますが、意味がまったく違います。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 同行避難 | ペットと一緒に避難場所まで移動するという「行動」 |
| 同伴避難 | 避難所でペットを飼養管理するという「状態」 |
環境省が推奨しているのは同行避難、つまり「一緒に逃げること」です。「一緒に逃げられる=避難所の中で一緒に過ごせる」ではありません。
多くの避難所では、ペットは屋外の一角、別棟、テント、車内など、人が生活するスペースとは別の場所で管理されます。犬や猫が苦手な人、動物アレルギーの人も同じ避難所にいるためです。
「同行避難できると聞いていたのに、体育館の中に入れなかった」というギャップは、この用語の違いから生まれています。避難所に着いてから知るのでは遅いので、先に理解しておいてください。
まず確認すること:自治体の受け入れ方針
対応は自治体や避難所ごとに違います。事前に調べておくのが、いちばん実効性のある備えです。確認しておきたいのは次の点です。
- 近くの避難所がペットを受け入れるか
- 受け入れる場合、どこで飼養することになるか(屋外/別室/同室)
- ケージやキャリーが必須かどうか
- ペット同伴可の避難所が別に指定されていないか
自治体のウェブサイトに「ペット 避難」で書かれていることが多く、防災マップに記載がある場合もあります。見つからなければ、役所の防災担当課に電話で聞くのが確実です。平時に5分で調べられることが、当日の混乱を大きく減らします。
備えておくもの

人の備蓄と違い、ペット用品は支援物資が届くのが遅れがちです。特に療法食や薬は代替が利きません。
優先度1:命に関わるもの
- フード:最低5日分、できれば7日分以上
- 水:フードと同じ日数分
- 療法食・薬:持病がある場合はさらに多めに(入手困難になります)
- 予備の首輪とリード(伸縮しないタイプが安全)
- キャリーバッグ・ケージ
- 食器(折りたためるものが便利)
優先度2:身元と情報
- ペットの写真(飼い主と一緒に写ったもの)
- ワクチン接種証明書のコピー
- 犬の場合は鑑札と狂犬病予防注射済票
- 持病・服薬内容のメモ、かかりつけ医の連絡先
- 飼い主の連絡先を記した札
写真は飼い主と一緒に写っているものを用意してください。はぐれて保護されたとき、飼い主であることを示す証拠になります。ペット単体の写真だけだと、証明が難しくなることがあります。
優先度3:あると助かるもの
- ペットシーツ、排泄物の処理用品、消臭剤
- タオル、ブラシ
- 使い慣れた毛布やおもちゃ(においがついたもの)
- ガムテープ、油性ペン(ケージの補修や表示に)
- 洗濯ネット(猫を落ち着かせて運ぶのに有効。後述)
使い慣れた毛布やタオルは、慣れない環境でのストレスを和らげます。においのついたものを1枚入れておいてください。
いちばん大事な準備は「キャリーに慣らすこと」
物を揃えることより、実はこれがいちばん効きます。
災害時にだけキャリーを押し入れから出すと、ペットは「これに入れられると病院に行く」と学習しているので、逃げて入りません。一刻を争う場面で捕まえられず、避難が遅れる。これは実際によくある話です。
クレートトレーニングの基本
- 普段からキャリーを部屋に出しっぱなしにする(扉を開けたまま)
- 中に毛布やおやつを入れて、居心地のいい場所にする
- 自分から入ったら褒める
- 短時間閉める → 徐々に時間を延ばす
- ときどきキャリーに入れたまま移動してみる
「キャリー=安心して休める場所」になっていれば、いざというときすんなり入ります。
その他のしつけ
避難所ではペットも周囲に配慮する必要があります。
- 呼んだら来る(「おいで」)
- 待てができる
- ケージやサークルの中で落ち着いていられる
- 無駄吠えをしない
- 決められた場所で排泄できる
- 人や他の動物に過剰に反応しない
完璧である必要はありませんが、ケージの中で落ち着いていられるかどうかは、避難生活の負担に直結します。
迷子対策:マイクロチップと鑑札
災害時は驚いて逃げ出すことがあります。首輪や迷子札は外れることがあるので、複数の手段で備えます。
マイクロチップ
2022年6月から、ペットショップやブリーダーで販売される犬猫にはマイクロチップの装着が義務化されました。すでに飼っている犬猫については努力義務です。義務ではありませんが、装着していれば保護されたときに身元が確認でき、戻ってくる可能性が上がります。
なお、装着しただけでは意味がありません。飼い主情報の登録と、引っ越しなどの際の情報の更新まで済ませておいてください。ここが抜けていると、読み取っても連絡が取れません。
犬の鑑札・注射済票
犬は狂犬病予防法により、鑑札と注射済票の装着が義務づけられています。これも身元確認の手がかりになります。
迷子札
首輪に飼い主の連絡先を記した札をつけておきます。マイクロチップと違い、読み取り機がなくても誰でも確認できるのが利点です。
健康管理も備えのうち
避難所では多くの動物が集まるため、感染症のリスクが上がります。
- ワクチン接種を済ませておく
- 犬は狂犬病予防接種(法律上の義務)
- ノミ・ダニの予防
- 不妊・去勢手術(望まない繁殖の防止、ストレスや問題行動の軽減)
これらは「ペットのため」であると同時に、避難所で受け入れてもらうための条件になっていることもあります。
避難所以外の選択肢も考えておく
在宅避難
自宅の安全が確認できるなら、自宅にとどまるほうがペットのストレスははるかに少ないです。そのためには、水・食料・トイレの備蓄が前提になります。
人の分の備蓄については 防災の備蓄は何をどれだけ? にまとめています。ペットの分も同じ考え方で、普段使うフードを多めに買って古い順に使う「ローリングストック」が有効です。
親戚・知人宅
ペットを受け入れてくれる預け先を、平時のうちに話しておくと選択肢が増えます。遠方の親戚に頼めるなら、なお安心です。
車中避難
車内で過ごす選択もありますが、注意点があります。夏場の車内は短時間で危険な温度になります。ペットだけを車に残すのは避けてください。人のほうもエコノミークラス症候群のリスクがあるため、長期化させない前提で考えます。
猫の場合に知っておきたいこと
猫は犬以上に環境の変化に弱く、パニックを起こしやすい動物です。
洗濯ネットが役に立つ
猫を洗濯ネットに入れてからキャリーに入れると、暴れにくくなり、脱走も防げます。動物病院でも使われる方法です。かさばらないので、キャリーの中に1枚入れておいてください。
隠れ場所を把握しておく
地震などで驚いた猫は、家具の隙間や押し入れの奥に隠れます。普段どこに隠れるかを知っておくだけで、探す時間が大きく変わります。
脱走に注意
慣れない場所ではパニックで飛び出すことがあります。キャリーの扉は必ずロックし、避難所でも安易に出さないようにしてください。
まとめ
- 環境省は同行避難を推奨。ペットのためだけでなく、飼い主自身の安全のため
- 「同行避難」=一緒に逃げる行動、「同伴避難」=避難所で飼養する状態。別物
- 一緒に逃げられても、避難所の中で一緒に過ごせるとは限らない
- まず自治体の受け入れ方針を事前に確認する。5分の下調べが当日を変える
- フードと水は最低5日分、できれば7日分以上。療法食や薬はさらに多めに
- 写真は飼い主と一緒に写ったものを。はぐれたときの証明になる
- 物を揃えるより、キャリーに慣らしておくことがいちばん効く。普段から出しっぱなしに
- マイクロチップは販売される犬猫に義務、既に飼っている場合は努力義務。登録と情報更新まで済ませる
- ワクチン・狂犬病予防接種・ノミダニ予防は、受け入れの条件になることもある
- 自宅が安全なら在宅避難のほうがペットのストレスは少ない
- 猫は洗濯ネットに入れてからキャリーへ。普段の隠れ場所も把握しておく

